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さ・く・ら

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くろわく



人間にしたらもうかなりの老人なのだろう。しかし、私は最近になってやっと【見える】ようになったばかりだ。【聞こえる】のはそれよりちょっと前で10年は経つのだが。

小学校の正門というこの場所。子ども達の声をずいぶん聞いている。それが私の成長の助けになっているのかも知れない。そのせいで【見える】ようになったのだろうか。

【見える】ようになって最初に見たのは、子ども達ではなく大人だったのが残念な気がしたことを覚えている。あれは選挙の投票日だったようだ。聞き慣れた子供の声ではなく、あまりしゃべらない大人達が【見えた】。しかし、その日に出会った親子のことは、はっきりと覚えている。

若い夫婦だった。ベビーカーに座っている女の子が手をあげて私を見上げて何か言った。
「うん、きれいだね。さくらちゃんと同じ。さくらよ」
お母さんが言う。まだ言葉にはならない声で女の子は「あぅあぅあ」と手をふりながら言った。お父さんが「きれいだねえ」と言う。二人は立ち止まってしばらく私を見ていたのだった。

「来年も、桜見にこようね」とお母さんが女の子に話しかける。
「しゃうあ」
「あれっ、今さくらって言ったよ」とお父さんが嬉しそうな声をあげた。

三人が投票所のある校舎に入って行く様子を、私は想い出した。

作品名:さ・く・ら 作家名:伊達梁川