「哀の川」 第三十話
「はい、ああ、母さん・・・ん、由佳と一緒だよ・・・解った、もう戻るから。道に迷ってなんか居ないよ、心配してくれてありがとう。じゃあね」
「お母さんから?心配されているわよね。初めての車だし・・・私が誘っちゃってゴメンね・・・あら、嫌だわ!純一さんのが・・・出てきちゃった!汚しちゃったみたい」
「ええ?頼むよ・・・はい、ティッシュ」
「大丈夫だとは思うけど、明日良く見ておいてね。ごめんなさい」
「悪くなんか無いよ。気にしないで。でも気持ちよかったね・・・由佳は、ずいぶん大人になっているよ・・・女性は男性より早いんだろうね、変化が。由佳はこれからどんどん綺麗になってゆくだろうから、また逢うのが楽しみになるよ」
「そうかしら・・・自分を磨かなくちゃね、お母様に体を動かすようにとジャズダンスに誘われているの・・・行った方がいいかしらね?」
「母さんと?そうか、最近弛んで来たから、反省しているんだな・・・夏に一緒にお風呂入って見てしまったからな、ハハハ・・・」
「ええっ!お母様と一緒にお風呂入ったの?仲いいのね・・・純一さんは宝物なのよね、おば様の・・・」
「そうかな・・・ずっと母とは二人で暮らして来たようなものだからね、子供の頃は。母には僕が生きがいだったのかも知れないなあ・・・」
車は祖父の家に着いた。純一と由佳は頭をぺこっと下げて遅くなったことを詫びた。
作品名:「哀の川」 第三十話 作家名:てっしゅう