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郷愁

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 あの和食のレストランで笠山に声をかけたのが、妻が勤めていた銀行の後輩たちだということに、彼は漸く気が付いた。妻が後輩たちに銀行の中で自分の写真を見せ、著作を配っていたのではないかとも、彼は疑った。考えてみればたいして有名でもない自分の顔を、接触したこともない銀行員が知っている筈がないのである。
 桃の皮をむきながら、笠山は気付いていない重大なことがあるのではないかと思った。


                *


                 
 ふたりとも笑顔で寄り添って歌った田島靖男と片桐奈津子のデュエットが終わると、続いて坂本美貴と笠山が一本のマイクで歌った。ふたりの娘たちが古いデュエットソングを知っていたことに対してカウンターの中のスーちゃんは、
「若いのによく歌えたね。誰かに教わったの?」
「父に無理やり歌わされてたんですよ」
 奈津子がそう云って苦笑したのに続けて美貴も、
「おんなじね。わたしも父に何度も強要されて……」
 焼酎の水割りを口にしたあとで田島も不満を口にする。
「デュエットだと特に古い歌になるな。最近はいい歌がないよね。いい歌手もいないしね」
 数メートル離れたところから笠山が訊いた。
「ところで、やっさんはこのふたりとどういう繋がりなんだ?」
作品名:郷愁 作家名:マナーモード