郷愁
「通俗だね。B級ドラマだよ、そういうのは」
田島がそう云って笑った。
「その通り。だからその話は破棄したし、忘れようとしたのに、また思い出したな」
「読ませないで取り返したのよね。その女性とは?」
奈津子が訊いた。
「親に反対されて別れたんですよ。でも、ちゃんと生きてますよ。多分、どこかで……」
「会いたいんですか?今でも」
そう訊いたのは美貴だった。
「微妙ですね。そのひとはもう若くもないし、昔のことだから……俺を憶えてるかなぁ」
「一曲歌わせてもらうぞ。懐メロをな」
そう云って間もなく、田島が「いちご白書をもういちど」を歌い始めた。
笠山はつまらないことを話しながら随分飲んだものだと思った。三人を店に残して帰宅すると、午後十時を過ぎていた。郵便受けに最近送った原稿が戻されてきていた。内容が妻の受賞作に似ているので出版できないという文面の、編集者からの手紙が同封されていた。笠山はウィスキーを出してきて独りでのみ始めようとしたが、電子音が誰かの来訪を報せた。
そこに現れたのは美貴だった。彼女がソファーに座ると笠山はふたり分の水割りを作った。間もなく美貴は云った。