アイラブ桐生 第4部 44~46
レイコが、電話番号を言うからメモを取れと言いだしました。
ひとつ目にあげたのは勤め先の電話番号で、
もう一つはアルバイト先だと解説をします。
「え?アルバイトを始めたの 」
「24時間いつでも子供を預かる、無認可の保育所。
あれほどなりたかった保母さんに、なれなかったくせに
なんでいまごろになって、そんなことを始めたのか、
今は訳は聞かないで下さい。
でも、まもなく・・・
もしかしたら本当の保母さんになれるかもしれないし、
頑張れば、何か見つかるかもしれないから、張りあいはあるの。
寂しさも、なんとなくまぎらうし・・・・」
「もう一度、保母さんになる夢を追うの? 頑張っているんだレイコは」
その言葉への、返事はありません。
「解りました。
とりあえず、泊れそうなところや、
働けそうなところを見つければいいのね。
こころあたりを探してみますから、あなたは安心していてください。
電話番号はどちらも、レイコといえばわかりますからと
先方さんに伝えておいてください。
それと、連絡をいれる時間帯は、いつでも大丈夫ですからと、
もう一言添えるのも忘れないでください。
私が準備することは、それだけで充分ですか?」
それだけ充分だよ、助かると答えたら、
用件が終わっても電話は先に切らないで、とレイコが低くささやきます。
「わたしはとっても元気ですから、大丈夫です。
このことが公になると、あなたはホテルの中で少し大変かも知れませんが
我慢して踏みとどまってください。
こちらでのことは、すべて私が責任をもって最善の準備をします。
わたしで役に立つことなら、いつでもまた電話をして頂戴。
もう、他にはなにも無い?
困っていないの、大丈夫?
ごめんね・・・
じゃあ、先に電話を切ってもいいかしら」
そこまで言いきったくせに、
電話は切れずにただ無言に変わってしまいます。
しばらく待っても、ただただ沈黙ばかりが続きました。
気のせいか、かすかな洩れる吐息が聞こえたような気もします・・・・
「じゃあ」というと、
「うん・・・」とだけ答え、
すこしの時間をおいてやっとレイコが電話を切りました。
・・・・・・
作品名:アイラブ桐生 第4部 44~46 作家名:落合順平