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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 柳崎は座り込んで、茫然と本を見つめていたのだ。いや、これじゃ伝わらないな。なんていえばいいのか・・・。ああ、予想外って感じだ。どうやら本を落とす気がなかったらしい。それにしても驚きすぎだろう。手を滑らせることだって珍しい話じゃないし、あれだけ重たそうなものなんだから、それもなおのことだ。いくら怪力で、握力に自信があったとしても、やっぱり滑らせることはあるしな。
 たぶん今が攻撃どころだったのだろうけど、無防備な女の子に攻撃なんて卑怯な真似は出来ない。悩んでいると、彼女が声を漏らす。
「なん・・・で・・・」
 何が?
「君、何をした!」
 何もしてないです。いや、ガードはしたけど、あれは正当防衛ってやつでしょ!俺だって死にたくないんだって!だいぶ前からそう何回か言ってるじゃん!言ってなかったっけ?
 何も答えなかった俺に、柳崎はもう一度本を持ち上げた。
「答えろっ!何をした」
「お、落ち着けって!」
 俺は本を押さえるように手を伸ばす。彼女は怪力だと言っていた。だから、俺なんかに支えられるなんて思ってない。ま、思わずってやつだ。