その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「下がれ、僕が直々に相手をしよう」
現実にいるんだな、「僕っ娘(ぼくっこ)」って。俺には魅力が解らないけど。巨大な本を担ぎ、柳崎が俺の方に走ってきた。やばい。かなりやばい。俺能力ないんだよ?解らないんだよ?
「アリスっ!」
羊元が叫ぶ。結構緊迫した言い方で、危機感が煽られる気がした。あ、やっぱり俺、ピンチなのね。
柳崎が本を持ち上げて、俺の方に振りかぶってきた。ちょっと頑張れば避けられるかも。そう判断して、横によけようとする。が、気付くべきだった。相手が持っているのは本だ。下りてきているのは背表紙側で、細く見える。けれども、本には他の武器とは違う特性がある。
横幅が広がるのだ。
逃げ切れると判断したのに、バッと本が開かれ、逃げ切れなくなった。やばい。そう自分で解ったころには、防衛本能が働いて、警棒を構えていた。
ガッ
多少の衝撃こそあれど、思ったよりも少なかった。本の重さに怪力の彼女の振りおろす力があれば、かなりの衝撃があると思ったんだけど、思い違いか?
次の攻撃がいつあるか解らない。少し本と距離を置いて、柳崎を見た。そこで、彼女の妙な姿を目撃する。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷