その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
・・・まさかの成功。取れちゃったよ、どうしよう。そう思うも考える猶予はない。どんどん襲ってくるため、早く逃げないと袋叩きに遭う。そうなると、思ってたよりも自分の判断は速かった。
警棒を横取るように掴むと、相手の脛を勢いよく蹴った。さすがは弁慶の泣き所と言うべきか。相手はすぐに警棒を手放し、その場にうずくまった。これで何とか武器を得た。そのまま漫画や映画の動きをまねて、次の兵士が振りかぶってきた警棒を、それで受け止める。グイと薙ぎ払うと、いとも簡単に相手は倒れた。そのまま腕を押さえてうずくまる。
俺が意外と喧嘩に強いのかもしれない。けど、妙に兵士たちが弱かった。どう言うことだ?軍隊の兵士なんだから、もっとしっかりと訓練されてんじゃないのか?軍隊とは縁遠い人生を送ってきたので、詳しくは解らない。本を読むのも好きじゃないから、二行読んだら催眠にかかる。だからそこからの知識もない。
不思議がりながら戦っている様が面白かったのだろう。奥で宝亀が笑っていた。思わず大声で怒ってしまう。
「何笑ってんだよ!」
「すまない、我慢できなくて・・・」
口元を隠して肩を震わす彼女を、物珍しげに隣で見ていた鷲尾がフォローする。
「珍しいことだから、許してやってくれ。能力者と非能力者の力差に慣れてないお前が愉快なんだそうだ」
嫌味か、このやろう。
ともかく、どうやらこの力差は、能力の有無にかかわるらしい。どんな能力なんだか分らんが、とにかく俺はやっぱり能力者のようだ。あの卵さえ使えれば、俺も能力が発動するのに・・・
「貴様ら、何をもたもたしているんだ!」
羊元の相手をしながら、やきもきした柳崎が声を荒げた。兵士たちはざわざわとしながら、何人か同時に攻撃したりしてきたが、やはり同じように武器を取り上げたり、肘鉄みたいなちょっとした攻撃で、すぐに相手は倒れて行く。すげぇ、なんかアクション俳優になったみたいに強い。スーパーマンとは言えないけどな。
俺が能力者だと気付いた柳崎は、羊元の編み棒を勢いよく払うと、方向転換してきた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷