その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「シープ&ゴート、確認!」
でっけぇ声。思わず耳をふさいだ。振り返ると、真っ白な団体が控えていた。少しまぶしい。木の葉が水色なもんだから、まるで空を見ているような配色だ。少し懐かしくもあるな。
ふと黙っていた鷲尾が、目を丸くした。
「白の軍・・・」
軍隊。そうだった。ここで行われているのは戦争。そして白の軍ということは、まさか・・・
真っ白な軍隊から、一人の少女が現れた。長い黒髪を大きくうねらせるその子は、羊元と同じくらいに見える。つまりは俺より年下っぽいってことだ。っていうか、この世界の女子率高くね?今んところ、鷲尾と燕尾服と、あのバカップルっぽい人くらいなんだけど。まあ、軍隊には男が混ざってるけどね。
彼女は自分より年上の軍隊の人々に道を譲られ、堂々と目の前に現れた。宝亀を睨んでいた時よりも、もっと敵意を含んだ瞳で、羊元は彼女を睨みつけた。
「柳崎(りゅうざき)・・・」
そうつぶやいたのを聞き逃さなかった。柳崎さんか。軍隊の動きから、彼女がこの軍では若齢ながらに指揮を取っていることが解る。実力者ってことで、それはきっと、つまり・・・。
「能力者?」
小さな声で言うと、近くにいた宝亀が首肯を返してくれる。やっぱりそうか。この世界じゃあ、能力者は天才みたいな感じだもんな。そりゃ地位もあるわ。
汚れが目立っちゃうんじゃないのと心配になるくらい真っ白な軍服に身を包んだ柳崎は、小さな体で堂々と仁王立ちした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷