その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
あれから十分くらいがたった。空を流れていた雲はすっかりと姿を消し、暑さがじりじりと体を焼く。湿度もないし、草木があるので、日本ほどの暑さはない。それでも視界に嫌でも入ってくるゆらゆら揺れる真っ赤な雑草が、炎を思わせるんだ。それがたまらない。
やっと戻ってきた羊元は、小さな巾着袋を手に持っていた。「小さな」レベルじゃない。本当に、卵一個分くらいしか入らないんじゃないかっていうくらいだ。淡々とそれを見せた。
「武器、持ってきたよ」
「あ、ありがと」
不安とともに受け取ろうとすると、羊元はひょいと取り上げた。もう一度受けようとすると、また取り上げられた。あれ?俺なんか、苛められてる?
すると彼女は逆に手を差し出してきた。何だろうときょとんとしていると、彼女はまた手を動かす。まるで、何かを催促しているように。それでも解らないので、宝亀に助けを求めると、彼女より先に羊元が口を開いた。
「ここはお店よ?」
なるほど。確かに金は払わねば。俺は鞄から財布を取り出す。中身は三千九百二十一円。小遣いをもらったばっかだから、そんなに不便はないけど、漫画とか雑誌とか、そういうのが響いたなぁ・・・。
そういや値段知らないな。不思議そうに俺を見てくる羊元に、いくらか聞いた。すると、思いもしない返事が来た。
「いくらって?」
「え?値段だろ?」
「値段?」
「え?店なんだろ?」
「店だよ」
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷