その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あんたは何を買いに来たのかしら?」
俺が答えるよりも早く、宝亀が口をはさんだ。
「武器だ」
「あんたには聞いてないよ」
じろりと睨む羊元は、とても俺より年下には見えない。なんだろう、ヤンキーを相手にしてる感じかな?すっげぇ絡みたくない相手だ。必要さえなければ、彼女の前に俺が立つことすらなかっただろう。さっき編み物をしている姿は、異様とはいえ、可愛らしさを含んでいたはずなのに。
綺麗な人は顔が歪むと本当に怖い。ぞんざいな扱いを食らう宝亀は、今まさにその状況だった。あれに睨まれて飄々と俺に尋ね返してきた羊元の感性は、俺には測れない。っていうか、それを我関せずで傍観してる鷲尾も鷲尾だ。原因お前じゃねぇの?
黄色い空を紫の雲が、クラゲのように流れていった。風で木々が元の世界と変わらぬ音を奏でてくれる。・・・もう現実逃避はやめよう。一応、再度俺自身が告げた。
「武器がほしい」
「武器?そっか。アリスも武器があるんだったわね」
・・・ん?今なんか引っかかった。「ちょっと待ってな」と羊元が店の奥に行く。今のうちに少し考えよう。
武器が貰える。そこはいい。武器が店にある。これは違和感あるけど良しとしよう。そうか。「アリスも武器がある」、この表現だ。まるで「アリス」専用の武器があるみたいな言い方に感じる。能力に合った武器があるということだろうか?もしかしたら、俺の能力も解るかも!
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷