その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「契約だよ、契約」
今までずっと笑うだけで、黙り続けていた鷲尾がやっと口を開いた。振り返って睨んでも、彼は平然としている。大人の余裕ってやつか?まだ大学生くらいにしか見えないのに。大人じゃないだろ、大学生って!
この世界での契約は厳しい代わりに、それに見合った価値があるらしい。あれだけ疑っていた羊元がすぐに納得して黙った。初めからそう言えばいいんだったら、さっさと言ってくれよ!もしくは教えてくれればいいだろ!
羊元はまた俺の事をじろじろと観察してから、また彼に尋ねた。
「で、何の用だ?こんな目新しいの連れてきて」
尋ねられた鷲尾が答える前に、宝亀が口をはさんだ。
「用があるのは獅子丸じゃない。アリスだ」
「有須な」と、久々に訂正を入れておく。すると宝亀は「失礼」と律義に謝ってきた。なんかこういうところいちいち性格出るよな。っていうか、訂正入れてなんだけど、わざわざ謝るほどの事じゃないし・・・
羊元がじろりと宝亀をにらんだ。え?何?三角関係的な?鷲尾もてるねぇ・・・。羨ましい。
「そうかい。で、アリス?」
さっきの訂正聞いてなかったのか?
結構怪訝な顔をしたはずなんだけど、羊元はぜんぜん気にも留めてくれなかった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷