その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「じゃあ、あんた、白なんだ?」
「え?」
「赤の公爵夫人から、鷲尾を逃がしたんでしょう?」
公爵夫人は、赤側だったのか!
・・・すまん、知ったかぶった。そういやそんなのあったな。出てくるたびにこんな調子だ。もう覚える気ないのかもね、俺・・・。
でも俺は実際白じゃない。これは言う必要はないかもしれない。でも、俺の滅多に活躍してくれない勘が告げるんだ。これはちゃんと言わなきゃ命にかかわるって。
「俺じゃ白じゃない」
噛んだ。まあ、仕方ない。だってさっきから羊元がこっちを見つめてくるんだから。不敵な笑みを保ったままで、そりゃあもう怖いんだ。これにときめけるほど、俺はマゾヒストじゃない。逆らう勇気もないけど。
信用していないのか、羊元は舐めまわすようにじっくりと俺を見る。
「白じゃないなら、どうして鷲尾を助けたの?」
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷