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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 疑問をぬぐえない顔はしていたが、好ましくない行為だったということには、羊元も気付いてくれたようだ。触るのをやめて、今度は俺の方をじっと見た。これもこれで慣れない。もう何回もこっちに来てからやられてるけど、これだけは慣れることができない。いや、まだ来てからそんなに時間も経ってないんだけど。
 そこでふと思い出す。この世界に来てから、少なくとも一週間は経ってる。俺の話下手もあって、解りにくかったかもしれないけど、少なくとも七回は夜を迎えている。これって元の世界でも同じ時間経ってるのか?だとしたら俺、もう神隠しに遭ってることになってるよ?
 余計なことを考えている間も、ずっと羊元は俺を見ていたらしい。大きな声で奥にいる鷲尾に尋ねる。
「ねぇ、この子何ができるの?あの公爵夫人相手に勝ったとは思えないんだけど」
 う・・・。事実でも、結構さっくりくる言葉だ。苦手とする女子のタイプだな。
 鷲尾も鷲尾で笑いやがる。
「そりゃそうだ。こっそりと鍵を取ってきてもらったんだよ」
 そうだよ。どうせ俺にはそんくらいしかできねぇよ!
 すっげぇ屈辱的、というか情けない思いを味わう。なんで俺、こんな悲しい思いをしなきゃいけないわけ?しかも当然のことながら、それに気付く奴はいないしね。
 いきなり、自虐的になっている俺を、羊元が疑わしげに睨んできた。