その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あー、もうっ!解ったよ、歩くって!歩くから手を放してくれ!」
「止まるだろう、お前は」
「止まらない!止まらないって!止まったら針千本飲むから!」
「いや、そんなことに命を張れとは言わないが・・・」
あー、面倒くさい!こういう表現が使えないところが何とも面倒くさい!
もどもどしてる俺たちを見て、奥で鷲尾が笑っていた。ちらりとこちらを見ては、口元を隠しながらクックッと笑う。笑っちゃいけないと思ってるから隠してるんだろうけど、見えてるから!我慢しろよ、何が面白いんだかわかんないけどさ!
やっと手を離してくれた宝亀は、何がどう不満だったのか、少し考え込むそぶりを見せた。俺はずんずんと一人で今までの進行方向に歩いて行くと、後ろから声がかかった。
「あ、違うぞ。そこは右だ」
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷