その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
確かに攻められたら余計疲れる。それは解るんだ。でも、俺だって疲れてるんだよ。動きたくない気持ちは、宝亀の懸念に匹敵する具合だと思う。
座り込んで、体重を支えなくてよくなった足にじわじわと痛みが走る。よく頑張ったよ、俺の足。
鷲尾は俺と宝亀を交互に見て、けれども俺の歩けなさそうな様子に、立ち上がるそぶりを見せなかった。
そんな俺と鷲尾を見て、宝亀は我慢ならなくなったようだった。彼女はずかずかと歩いてくると、地面に着いていた俺の手を握った。美人に手を繋がれると、恥ずかしくなる。振り払おうと思ったが、結構しっかりと握られていて、その一回では不可能だった。
「行くぞ。この辺では最近大河(たいが)と福奈(ふくな)の二人が目撃されている。見つかるのは良くない」
また新しいのが出てきた。誰だよ、それ。聞こうと思ったけど、小学校の遠足以来女子と手を繋いだことのない草食系の俺は、もう宝亀の手の柔らかさに頭がパニックしてる。
抵抗を見せない俺に、鷲尾も立ち上がって進み始めた。いや、待って。抵抗しないんじゃなくて出来ないんだって!お前はグリフォンだから肉食系なのかよ!
俺の頭も限界になり、思わず繋がれた手をぶんぶんと振った。しかし、宝亀の力は意外と強く、これでもまだ話してくれない。最終手段として、声で訴えることにした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷