その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
片道でも疲れたのに、また同じ道のりをまた同じ時間かけて帰ると、宝亀の前に着いたころにはへとへとになっていた。「あー」と声をあげてそこらへんの木の根元に座り込むと、足にじわじわと痛みが走る。いや、痛みっていうか、疲労かな?とにかく疲れがどっと流れてきた。
二人揃ってそんな俺の様子を見てから、顔を合わせた。宝亀は鷲尾と俺をもう一度見直してから、首をかしげる。
「そんなに大変な道のりだったか?」
「いや・・・」と鷲尾も困った返事をする。悪かったな!インドア派なんだよ、俺は!ゲーマーでも読書家でもなんでもねぇけど、あんま外であそばねぇンだよ!体力がないんだって!いやホント、この世界に来てからいろいろ反省もしてますけど・・・。
「しかしそうか・・・」と宝亀はあごに手を当てて、考え込んだ。彼女は素材(?)がいいから、こういう姿も様になる。宝亀が考え込む、というのは珍しいことのようで、鷲尾も目を丸くしてそれを見ていた。
期待と奇異の視線を受けて宝亀が出した答えは、どうにもわからないものだった。
「羊元(ようもと)の所へ行こう」
「羊元?」
なんか新しいのが来た。今度は何なんだ?しかし、鷲尾も直では繋がらない人物だったらしく、首をかしげていた。
「羊元の所って・・・あの店だろ?」
店をしている人らしい。宝亀は首肯する。
「ああ。王族に会うにも、能力にあてられては意味がない。対抗策を持っていかねばな」
・・・よくわかんなくなってきた。それでも鷲尾は理解できたようで、「ああ」と納得を示す。俺がバカなだけですか?
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷