その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ダメ」
「なんで?」
彼女の回答に、俺は身を乗り出して聞き返してしまった。さっきまで震えていた自分を忘れたみたいだ。
結構な勢いで言ってしまったにもかかわらず、彼女は淡々と投げた鍵を引っこ抜いた。それから上目遣いで俺を見る。女の子の上目遣いって、ときめくポイントだろ?なんでこんなに怖いんだよ!
「何でもないでしょ?許可証も持たずに」
「・・・許可証?」
聞いてねぇぞ?鷲尾を見ると、眉間にしわを寄せていた。
「許可証ったって、そいつはアリスだぞ?」
「アリスだから何?この門から入ってきたならいいけれど、私が見張っている限りでは、彼は初見よ」
そりゃそうだ。俺だってこの門初見だもん。
どうやら問題は俺のイレギュラー性らしい。門から入ってきた過去のアリスたちは門から帰れたものの、空から落ちてきたというこの世界でも摩訶不思議な入り方をした俺は、門を通るにもこの世界の住人と同じ扱いになるようだ。それは鷲尾や、きっと宝亀も思いもしなかったルールなのだろう。鍵守独自のものかもしれない。だとしたら、運が悪いとしか言えないけど。
しばらくは食い下がってみたものの、鍵守はかなり頑固で、断固として譲らなかった。まぁ、考えてみれば、説得力はない、説明は下手、あきらめも速いという三拍子そろった俺に、勝ち目ははなから無かったような気もする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷