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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「門番、いえ、今は『ドアノブ』だったかしら」
 それこそ役職じゃねぇの?いまいち能力ってのが解らない。俺の能力が何なのかも結局わからずじまいだし、だいたい能力なんて持っているかも解らない。思い込みって可能性が消せないからだ。
 逃げるように数歩下がると、扉を見上げた。やはり鍵穴は見えない。そこにあるのはただの大きな石門だ。何らかの文様が入っているようだが、ただの柄だろう。おかげで近付かないと扉であることも分かりにくく、ただの石板にも見えた。
 取っ手も何もなくて、押して開けるにも重そうで、本当にここから帰れるのか不安になる。駆られるように手を伸ばした時。
「危ない!」
 目の前に鍵が突き刺さった。さっきまで、鍵守が持っていた鍵だ。鷲尾が左腕を慌てて引いてくれなければ、右腕の無事は無かっただろう。振り返ると、剣呑な眼差しを向けてくる彼女がいた。
「扉に何の用?」
 さっきはあんなに近くにいても恐怖心はなかったのに、離れた今の方が足が震えた。口で言えばいいだろとか、いろいろ思うところはあったけど、声にならずに頭からこぼれおちる。
「悪気はないんだって。ただ、アリスを元の世界に戻してほしくてさ」
 手を離した鷲尾が、軽い口調でフォローを入れた。しかし、引っ張られた腕には彼の手の跡がくっきりと残っていて、必死だったことを知る。面目ない。
 表情を見せた鍵守だったけれど、すぐにまた鉄火面に戻った。当然だろう。こちとらきちんとした理由があって使いたいんだ。元の世界に帰るっていうのは、すっげぇ大事な理由じゃん?
 しかし。