その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
何を考えているのか、相変わらず彼女は退く気配を見せない。さすがにずっと見続けることができなくて、思わず視線を逸らした。そこで目に入ったのは、巨大な鍵だった。またここでも鍵か。とはいえ、今回は鷲尾の時よりもずっと大きい。小学校の時に使ってた竹ぼうきと同じくらいの大きさがありそうだ。ちょっと竹ぼうきを大きく見てるかもしれないけど。形は小説とかに出てくるやつだ。少なくとも、家の鍵みたいなやつではない。
そう言えばさっき、鷲尾は彼女の事を鍵守って呼んでたな。ということは、彼女はこの門の鍵を守ってるってことか。でも、扉に鍵なんて付いてたっけ?ちらりと見たいけど、さすがに顔の向きまで変えるのは無理だ。
そんな困っている俺そっちのけで、鷲尾は扉を見て「でかいなぁ」と呟く。そしていまさら思い出したように、こちらを見た。
「ああ、そういや紹介まだだったよな」
こっちまで来て助けてくれればいいのに、横着なのか意地悪なのか、鷲尾はその場で済ませた。
「そいつは今回のアリス、有須啓介だ。『ありす』って名前のアリスが来たのはかなり久しいよなぁ」
感慨にふけってないで助けろよ!
もう泣きそうな俺に、彼女は初めて前のめりだった体を戻してくれた。解放感が体に満ちる。
「そう。あたしは鍵守。鍵守季々」
え、鍵守って名前なの?役職じゃないの?
思わず俺は尋ねてしまう。
「え?じゃあ、能力は・・・」
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷