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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 神社の階段と言うと、こう、何十段もあるイメージが俺にはある。しかし、ここの階段はたったの十段だった。その代わり、駆け上ることはおろか、普通に上ることすら足元に不安を覚えるほどの段差だ。何度も重心が後ろにずれかけて、転びそうになった。こんなところ、冗談でも階段落ちなんてしたくない。
 階段をすべて登り終えた俺は、体力の限界を迎えていた。走っていた、というのもあるのだが、それ以上に階段がハードだった。段差を減らして段数を二倍にした方が、絶対に参拝客も来るだろうに。しばしば掃除をしている姿を見ていた神主に尊敬と呆れを抱いた。
 息を整えてから、顔を上げる。すると目の前に巨大な神木がそびえたっていた。神社とかの常識に疎い俺には、神木が何の木なのかすらわからない。それでもその太さ、たくましさには一種の感動を覚えた。これが何年間もここで生きているのかと思えば、当然の反応だろうけど。
 彼女を探して神木の周りを一周する。上ってから、神木の後ろを抜けて行ってしまったかもしれないと思って慌てたけれど、神木の奥にはやっぱり雑木林があるだけで、人が通れそうな道なんてなかった。彼女に追いつくこともないまま、道祖神の前に戻ってきてしまった。
「やべ、もしかして入れ違った?」
 階段を上っているときにすれ違わなかったため、ここにいると踏んでいた。が、考えてみれば、この神木の周りをまわっている間に、彼女が階段を下りてしまっていても可笑しくなかった。俺は自分の不注意さと馬鹿さを思い知る。ちらりとみた道祖神が、にやりと俺を嗤っているように見えた。むっとなって、罰当たりなことに、その道祖神の頭に触れた時、俺はあるものに気づいた。
 道祖神の後ろ、木の根もとに大きな穴があった。深さは底に生えている雑草が見えるほど浅く、どうやら木の下に道が続いているらしい。俺はふとマンガに出てくるような光景が出てきた。こういうほど道を行くと、奥に開けた秘密基地があり、そこで何らかの密会が開かれている、みたいな。
「え?コスプレ集会?」
 そんな馬鹿な、と自分で思う。でも気になって、俺は空を見た。空にはまだかろうじて青色が残っている夕焼けで、まだ夜の色は見えていない。どうせ兄弟はいないし、今両親はふたりで旅行に行っている。帰りが多少遅くなっても心配されることはないだろう。ま、男子高校生の帰りが遅いなんて、ある意味健康か?俺の中でも健康な男子像が、都合のいいように改変されている自信はある。けど、迷いがないのは事実だ。
 俺は足元に気を付けながら、穴の中に下りた。雑草はかなり背が高かったようで、ずぼっとはまった感覚を味わう。木の下に続く道は俺の身長よりも低くて、草に埋もれるようにして進んでいく。もう掻き分ける、というレベルだ。木の下でも雑草の生命力は衰えない。日の光を求めて出口側に傾いているそれらに、逆らうようにして進んでいった。