その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あの扉を通じて、歴代のアリス達は帰っていったそうだ」
ま、こっちの人にとっては、異世界への扉ってことだな。でも、そんなものがあんなに堂々と立っていて大丈夫なのだろうか?宝亀しかなんの扉なんだか知らなかったとしても、放置しっぱなしってのはやっぱり信用できない。でも、窓にガラスがなかったり、言えすらなかったり、能力を持っていることだって違う。そう考えると、考え過ぎな気もしてきた。
ひとまずあの扉の方に向かって行けばいいわけだ。近い目標ができると気持ちが少し楽になる。
礼を言って駆けだそうとすると、待ったの声がかけられた。
「一人で行くのか?」
「え?そんなに込み入った道なの?」
てっきり森の中をまっすぐ突き進んでいけばいいもんだと思ってたんだけど。
宝亀は振り返って、今度は鷲尾に声を駆ける。
「獅子丸、案内してやったらどうだ?」
「なんで俺が」
「どうせ、鍵をはずしてくれたのも有須なんだろう?」
「あ・・・」
宝亀曰く、鷲尾は鍵を回せるほど頭がよくないらしい。たぶん、使用頻度とかそう言う話なんだろうけど、どんだけ馬鹿なんだよってつい思う。表現としては、不器用って言った方が、鷲尾の頭脳は救われたのではないかと感じた。
言われてみればそうなんだけど、俺が頼まれたのは鍵を取ってくる、と言うところまでだった。「好意」というより、ただ俺が待ちきれなくて勝手にやっただけなんだけど、鍵を解錠するというのは提供ではなければ、一方的に契約を打ち立てた、ということになるらしい。なんだか面倒くさい世界だ。
そのため、今俺は鷲尾に「貸し1」の状態。で、この世界のルールとして、立場が同等の時は「貸し借り0」が理想。というか、ルールなのだとか。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷