その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「場所らしいぞ」
そうそう。ちょっと範囲広いけど、場所には違いない。解りやすすぎる説明に、宝亀は拍子抜けした。
「場所?」
「みたい。こいつが元いた世界の名前だって」
ちょっと待て、違うって!完全に蛇足だって!
俺がいた世界の名前は・・・ちょっとわかんないけど、少なくとも星の名前は地球のはず。価値観の違いとか、世界観とかの領域になれば、国を「世界」と判断しても間違いはないと思うけど、それでもやっぱりおかしいって。俺ってこんなに説得力ないの?俺が説明投げたせい?
悶々としているのに、どうにもそれが伝わらなかった。てっきり日本を世界名ということで納得した宝亀のスイッチが、恍惚からすぐに切り替わる。
「さて、それでは帰る手段を提供しよう」
・・・ま、困るわけじゃないし、納得してくれたならそれでいいか。思ったより質問が少なかったというのもホッとする。
朝っぱらから動いていたおかげか、まだ空はそこそこ黄色くて、時間はまだたっぷりとあるようだった。もちろん今ここでも、誰かに命を狙われる危険性がないわけではないらしいけど、やっぱりこういうくだらない話をしていると、どうしてもその辺おろそかになる。いや、生まれつききっと、受験戦争くらいしかかいくぐったことがない俺には、危機感とかあんまないんだろうな。
余計なことを考えていると、宝亀が長い腕をのばして、さらに指先もピッと伸ばした。こんな指ってあるんだと感動するくらい、長くて細く、また白い指だった。男の思う女性の指って、こういうイメージだよなぁ。ネイルとか?そういうのも全然使ってないのに、爪もすごい綺麗だ。
「・・・何を見ている?」
「おわっ!わ、悪い・・・」
「謝る必要はないだろう。変な奴だな」
外国人から見たら、すぐ謝る日本人は変わってるらしいけど、やっぱりこの世界でもそうみたいだ。まあ、今の俺のは恥ずかしいからっていうのもある。
改めて指の差す先を見てみると、雲にかかるほど巨大な何かが見えた。・・・ベルリンの壁?じゃ、無いよな。
「見えるか?」
俺、そんなに背ェ低い?ここにきてから、身長の事だけで、何回泣きそうになってるんだか・・・
肯定すると、宝亀は話を続けた。
「解ると思うが、あれは扉だ」
・・・解りませんでした。
落ち込む俺を見ることなく、宝亀が続ける。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷