その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「そう言えば、家に入ることも犯罪なんだって?」
「犯罪?たかがそれだけで?」
それだけじゃねぇだろ。結構な大事だぞ。
「っていうか、入るのは犯罪じゃない。無断で入るから犯罪なんだ」
「無断以外にどう入る?」
「いや、電話したりとか・・・」
説明しながら、嫌な予感がしてきた。いや、いくらなんでもそんなことはないと思うんだけども・・・
「電話とはなんだ?」
ああ・・・、予感的中。電話の概念がなかった。電話の説明をするのは難しそうなので、とにかく大声を出してごまかす。
「日本だけの話かもしれないから、深く追求すんな!」
かもしれないはずがないことくらい、どんな阿呆だって解る。つまり、俺にだって解ってる。だからごまかしきれる自信もなくて、もうこれ以上問い詰められたら、もうあきらめるしかない。出来ることはやったんだ。俺は頑張った。
けれども、次に宝亀が食いついたのは全然違う方面だった。
「ニホン!日本とは何だ?何の定義なんだ?」
・・・定義って何?日本の定義って何?俺どう答えればいいの?誰か教えて。
思い返してみれば、たしか鷲尾も流れから「日本」が「場所」だとは解ってくれたけど、実際なんなのかまでは解っていないようだった。となると、きっと「国」という概念もないんだろう。自分の常識がここまで世界の非常識になるとは、思ってもいなかった。外国に行くとそういう意味で疎外感を感じるって言ってた、従兄の気持ちがよくわかる。いや、たぶん俺の方がずっと孤独だと思うけど。
国の概念に悩んでいると、見かねたのか鷲尾が助けてくれた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷