その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「だからこそお前の知識がほしいんだよ!私は」
・・・?
「ごめん。俺馬鹿だから、何が『だから』なのかわかんねんだけど・・・」
「安心しろ、オレもわかんないから」と同意して、鷲尾が苦笑いする。彼曰く、宝亀は頭が良過ぎる自覚がない。そのため、よく間をすっぽ抜いて話をするらしい。意外と質が悪い人だ。
会話が聞こえたのか、宝亀はため息をついた。つい思う。
知識の前に、コミュニケーション能力からつけろ!
宝亀が解説しながら、こっちに歩いてくる。
「つまり私は、現世のためではなく、後世のために知識を集めたいのだ」
「今までの亀まがいもそうじゃん」
違いがよくわからなかった俺が反論すると、さっきまで同意してくれていた鷲尾に否定される。
「いや、それは違うな」
「何が?」
鷲尾は少し困ったような顔をして、低く唸った。その声は長く、尻上がりに発せられる。
「上手くは言えないけど・・・なぁ?」と、宝亀の方に目を向ける。なんかずるくね?その方法。
しかし宝亀は大して突っ込まずに、ただ「能力による価値観だろう」と雲のような説明を返してきた。俺、この人と話していける気がしねぇ・・・。
もういいや。深く考えるのは割に合わない。これでたとえだまされようと、それはそれで仕方ない。こんな頭使うやり取りなんて、した記憶ねぇもん。頑張った方だ。
承諾してから、俺はもう一度確認を取る。
「ともかく、驚いたことを言やいいんだな?」
「ああ、それが知りたいことだからな」
どうやら歴代の亀まがいの中でも、「地球」(と断定していいのか?)に興味を持った者はいなかったらしい。そりゃそうだ。知識として持っていても、意味がない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷