その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「失礼なことだとは解ってるんだけど・・・おいくつ?」
そう。宝亀自身が覚えているとしか考えられなかった。さっきも言った通り、宝亀は見た目こそ若い女性だ。しかしこの世界は半ば何でもアリ。しかも彼女は亀まがいと言うではないか。鶴は千年、亀は万年と長生きの象徴なのだから、宝亀が実はものすっごい年齢が上だったとしても、可笑しくない。ほら、亀の年齢って、ぱっと見ただけじゃわかんないじゃんか。アレみたいな感じかも。そもそも、でかい盾を背負っているだけで「亀まがい」と呼ばれるなんて、可笑しいじゃん!
「何が失礼なことか」と不思議がられた。この世界の常識ではなかったもよう。乾いた笑いをする俺に対し、宝亀は無い胸を張って答える。
「見ての通り、まだ二十代の若者だ」
何の落ちもない、見た目通りでした。
ってことは、あれ?やっぱりおかしい。
「じゃあなんでそんなこと知ってんだよ?」
「亀まがいの能力だからだ」
能力。そう言えばそんなもの、あったっけ。
どうやら、亀まがいの能力と言うのは、代々の亀まがいの記憶を受け継ぐというものらしい。そのため、まだ二十年ちょっとしか生きていない(俺にとっては「しか」じゃないんだけど)宝亀にも、代々の亀まがいの何千年という記憶が収納されているらしい。意識して思い出せるというのだから、パソコンのデータバンクって言った方がふさわしい感じだ。
といっても、一瞬にして覚えられるとか、代々の亀まがいが素晴らしい記憶力を持っていたわけではなく、たまにうろ覚えだったり、記憶の飛んでいる代もあるのだと嘆いていた。そう言われれば、亀まがいが真面目な宝亀だった俺は、かなりラッキーである。
自分の運の良さに心を救われながら、俺は本題に入った。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷