その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
宝亀の説明はところどころわかりにくいところがあったので、鷲尾のフォローを入れつつ、俺なりにまとめてみた。
鷲尾が最初に言っていた通り、アリスと言うのはただの「能力」の名前なのだそうだ。能力についてはああだこうだと宝亀が説明してくれたけど、正直難しすぎてわかんなかった。鷲尾曰く実践した方が解りやすいという。ので、今回はそれを採用。
おっと、話が逸れた。えーっと・・・、どこまで話した?
そうだそうだ。宝亀達を含む能力者も、何年かに一度は生まれくるものだという。だから全然珍しいものでもないのだとか。まあ、その能力者は一人しかいなくて、特別な存在ではあるみたいなんだけど。
で、アリスも同じらしい。何年かに一度、俺みたいに異世界から能力者が迷い込むのだそうだ。そこから「今回のアリス」とか、「過去のアリス」っていう表現があるらしい。宝亀が帰り方を知っていたりするのも、だからなのだそうだ。
「・・・て、俺の前のアリスって、そんなに近代なの?」
「いや?私の記憶の限りでは、もう長らくは来ていないな。時の流れが平等とは言えないが・・・」
宝亀はあごに手を置いて、斜め下を見た。それからしばらくすると、俺の顔に視線を戻す。
「人を殺すことに躊躇いがなくて、驚いた記憶がある」
戦時中ですか。
・・・ちょっと待てよ?そういう資料って残ってるもんなのか?宝亀は頭がいいみたいだから、きっとそういうものを読めば覚えていてもおかしくない。放浪しているうちに発見したとか?
それを直接訪ねてみると、宝亀は平然と答えた。
「ないが?」
「ない?」
「ああ。大体、『資料』とは何なんだ?情報の事か?」
資料の概念すらなかった。まあ、情報っちゃあ情報なんだけど。
概念自体ないのなら、正直「資料」に代わるものを見たのかもしれない。けど、宝亀の目はかなり本気で、そう言うものに関心がないようだった。
じゃあ、何処でその情報を手に入れたんだ?でも、さっきの思い出す動作は嘘じゃないと思う。・・・となれば?
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷