その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あんたの名前、獅子丸っていうの?」
言い終わる前に、鷲尾が耳をふさいでギャーッと奇声をあげた。恥ずかしさに声を出したせいもあって、さっきよりも真っ赤になっている。
「どうだっていいだろ!ほうき、オレを名前で呼ぶなって言ってんだろがっ!」
「いいだろう?私は獅子丸という貴様の名前は好きだぞ?」
ギャーギャーと騒いでいる間に、俺は彼女を観察する。
髪形はなんていうんだろう。おかっぱっていうのかな?いや、今は違う名称なのかな?ちょっとそういうのには疎いからわからない。スタイルはモデルみたいにいいけど、失礼ながら胸はあんまないように見える。
一番驚いたのは、彼女の持ち物だった。
彼女は腰にベルトのようなものをつけ、そこから立派な剣を持っていた。そして背中には、彼女の背中を覆い隠すほどの大きさの盾を背負っていたのだ。軍人か何かなのだろうか?
まったく痴話喧嘩が止まりそうにないので、俺はあえて空気を読まずに質問を割り込ませた。
「で、その人が亀まがいなのか?」
「ああ、そうだった。紹介がまだだったよな」
鷲尾は彼女の肩に手を置いて、俺の方に向き直った。言い合いで体力を消耗したようだ。バカらし。
「こいつは宝亀理華(ほうき・りか)。亀まがいの能力者だ」
ちなみに亀まがいと呼ばれている所以は、彼女が盾を背負っているせいだそうだ。まるで亀の甲羅のようだと、過去のアリスが笑ったのが原因らしい。考えてみればちょっと失礼な話な気もするのだが、まあ歴代の亀まがいたちが気に入っていたというのだからいいのだろう。
しかし。ここで俺はあることを思い出す。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷