その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「じゃあどうすんだよ!」
「呼ぶ」
は?
あまりにも端的だったもので、俺は頭がフリーズした。呼ぶ?そんなアレな・・・、単純な方法でいいの?
茫然としていると、鷲尾は草原に向かって仁王立ちになった。そして大声を放つ。
「ほーうきー!」
ほ・・・ほうき?亀まがいじゃないのか?
叫んでから数分後、草むらの一部がガサガサと揺れた。そこでゆらりと何かが立ち上がる。
現れたのは鷲尾と同世代の男でも、小学生でも、ましてやちっこいおじさんでもなかった。それは俺よりも大きい、鷲尾と同世代くらいの女性だった。
・・・くそっ、鷲尾もやっぱりペアかよ。
彼女は大きく伸びをしてから、くるりとこちらを向いた。
「ああ、おまえか、久しいな」
ずいぶんとたくましい物言いで。
彼女は草むらを掻き分けて、こっちまで来た。俺と鷲尾は悲しいかな顔半分違うけど、俺と彼女もその半分くらいの差がある。再三言うけど、俺だって「平均身長」はあるんだぞ!
「で、何の用だ?獅子丸(ししまる)」
・・・ししまる?
「ほうき」がそう呼んだ途端、鷲尾の顔が真っ赤になった。もしかして。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷