その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「アリスー?起きろー?」
寝ているところを、羨ましい低音ボイスに起こされる。俺的には可愛らしいソプラノボイスで起こしてほしかった。どうせ周りには鷲尾しかいないんだから、聞いたところで甲高いテノールだろうけど。
不機嫌さと眠気を隠さないまま、一応身を起こした。自慢じゃないけど、結構朝には強い方だ。
「もう朝になったのか?」
「いや?」
・・・は?
返事を受けて空を見てみると、多少黄緑が顔を出していたが、まだまだ深緑の方が多かった。夜明けって感じか?とにかくまだ写真とかでみる「朝焼け」の感じはない。
朝には強いけどまだまだ寝たいので、じろりと鷲尾を睨みつけた。
「朝まで寝かせろ」
「朝まで寝てたら死んじゃうぞ?」
どうやら赤と白の休戦は、あくまで「夜の間」だけであり、朝焼けとともに再開するらしい。基本的には「味方じゃない者を見かけたら攻撃しろ」体制らしく、うかつに寝ていたりなんかすると、見つかったときにすぐ狙われるという。ま、当然だよな、確かに。
仕方なく俺は鷲尾とともに歩き出す。
移動する間に空が黄緑色になり、俺が来た時と同じ黄色になった。夕焼けが赤い理由は太陽の色だからって聞いたことあるから、空の色の変化から、この世界の太陽の色は黄色なのだろう。ってことは、火の色も黄色なのか?
幸い誰に出くわすこともなくのんきに歩いていると、ふいに鷲尾が足を止めた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷