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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「はあー・・・」と勢いよく俺の口から息が出た。鷲尾の口からも、同じタイミングで安堵の息が漏れる。もともとずり落ちていた肩が、さらにずるりと下がった。
「バレなくて、ほんと良かった」
 彼をよそに、俺はトランプが何なのか気になっていた。だってあいつら、トランプ相手に「戦えない」とか、君付けしたりとか、いろいろ違和感がある言葉を口にしてたし。
 といっても、今さっきまで鷲尾が隠れるほどの相手がいたところに出る勇気はない。だから低木からそろりと覗き込んだ。
 赤色の草むらに、異様な紫色が広がっている。何だ?あれ。なんかの粉末ようだ。砂かと思ってじっと見ていると、鷲尾が不思議そうな顔で俺を見ていた。
「・・・お前、ああいうのは平気なんだ?」
「ああいうの?日陰か?」
 俺の発言を受けて、鷲尾は「ああ」と納得した。
「お前の世界じゃアレの色も違うのか」
 色が違うと聞いて、背筋に悪寒が走る。まさか。
 流れ出る俺の冷や汗を見ながら、鷲尾が口を開いた。
「血だよ。あれは、ディーとダムに致命傷を負わされたトランプの」
 予感が当たってしまった。だって赤くないじゃん。液体でもないじゃん。紫のただの粉末じゃないか。いや、それよりじゃあトランプって・・・。
「人間・・・なのか?」
「は?」
「トランプって人間なのかよ!」
 紫色から目を離せずに、鷲尾を怒鳴りつけてしまった。間抜けな声で聞き返してきたから、きっと今も驚いているんだろう。ちょっと間をおいて、鷲尾は気まずそうに声を出す。