その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
そこにいたのは二人の男女だった。同じような格好をしているので、カップルだろうか?かなり仲睦まじいんだろうなぁと思い、単品の俺は少しうらやましく思う。メイド服と燕尾服の組み合わせや、こいつらと言い、男女ペアが普通なのかよ、この世界は。もしかして、鷲尾にもペアがいるのか?
無駄な思考にふける俺をよそに、鷲尾が呟いた。
「ディーとダムだ」
・・・?その名なら聞いたことがある。何に出てきたんだっけ?思い出せない。
悩みこむ俺に気付くことなく、鷲尾は再び息をひそめる。男女が会話を始めた。
「どうする?このトランプ君」
「さあ?かずきはどうしたい?」
「かずきの思う通りでいいよ」
「僕はかずきに合わせるよ」
「あたしもそのつもりだよ。でもきっと、考えてることは一緒じゃない?」
俺の頭が混乱した。なんだ?どっちも「かずき」「かずき」って。二人のほかにもう一人、喋っていない第三者がいるのか?俺の頑張った思考を無視するように、男女が声を合わせて言った。
「赤の城に連れて行こう!」
「赤の城に連れて行こう!」
言った後、少しの沈黙を挟んで、二人は意見があったことではしゃぎだした。ホントのホントにバカップルのようだ。それから二人は何かを背負って姿を消した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷