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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「おお、帰ってきたか!」
 ボロボロになった俺を、暇そうに座り込んでいた鷲尾が迎えてくれた。羽根は俺の指から離れ、鷲尾のもとに戻っていく。「ほめて」と言わんばかりに鷲尾の周りをくるくる回るそれは、まるで帰巣本能を働かせて家に帰ってきた犬のようだ。いや、そんな犬見たことも聞いたこともないんだけど。鷲尾は羽根をねぎらってから、俺を見た。満身創痍な俺の姿を見て、
「・・・なんか、大変だったんだな」
「どっちかと言うと、あんたのその羽根の方が俺をボロくしてくれたよ!」
 必死の俺の訴えに、鷲尾は爆笑と言う非常に不快な返しをした。なぜだろう。こいつの清々しさが、たまに俺の癇に障る。
 鷲尾は俺をじろじろと見ると、可愛くもない「小首を傾げる」という動作をした。いい歳した男がやる動作じゃねぇよ。すっげぇ苦労した上にボロボロにされて、しかもそれを笑われて、もうこいつなんかに使うやさしさは残ってない。
 不機嫌な俺に気付きもせず、鷲尾が口を開いた。
「鍵は?」
 とっことん自分か、このやろう!俺は今まで大切に扱ってきた鍵を、思いっきり地面にたたきつける。ベストでくるまれてるから壊れる心配はないだろう。っていうか、この鍵は包まれてなくたって、そんな柔じゃないと思う。
「この通り!きちんとお持ち参じましたよっ!」
「お・・・おう。なんか怖ぇな」
 やっと俺の怒りを感知した鷲尾は、恐る恐るベストに手を伸ばした。
 しばしベストと格闘したのち、鷲尾は鍵を手に入れた。