その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
あれ?ポケットで何かが動いた。なんだ?なんか虫でも入ったか?ワイシャツが上に出てるはずなのに。
ポケットを探ると、金具の手触りについで、ふさっとした感触がある。そこでふと思い出した。RPGバリの超便利アイテムがあったじゃないか。
ぐいぐいと動くそれを引っ掴んで取り出す。見てみれば働く気満々だった。これがあれば鷲尾のもとにたどり着けるのだと、本人が言っていたけど、正直半信半疑だ。いや、本当に正直に言うと、二十パーセントも信用してない。でも今はこれしか頼みの綱がない。藁にもすがる思いだ。すがりつこうと思っているそれは、藁よりも頼りないたった一枚の羽根だけど。
それでもこいつはこんなに働く気でいる。だったら、頼んでみるのもありじゃないか。
「よし!頑張ってくれよ、鷲尾の羽根!」
すると羽根の付け根がにょろりと伸びて、人差し指に絡みついてきた。そのままぐいぐいと俺を引っ張る。直後、自分が油断していたことを思い知った。
ものすごいスピードで引っ張るのである。
草原のうちはよかったのだが、森の中に入っても同じ速度だった。当然と言えば当然なのだけれど、さっきっから言っている通り、森の中を走るなんて不慣れ極まりないのだ。だから、体のいたるところを木々に打ちつけられるという酷い目にあった。ぶつかった拍子に鍵を落とさないように、必死になる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷