その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「私は従者です。『忠実』であるべきです。それにあなたの言い分は、確かです」
・・・それはつまり?
メイド服はドスンと匙を地面に立てると、なぜか俺に一礼した。
「失礼します」
彼女は個性的な武器を持つと、経った一蹴りで俺の前から姿を消した。最後までなんとも機械じみている。それにものすごい跳躍力だ。たぶん彼女の能力ってやつだろう。でもその能力なら、スカートはアウトじゃね?
ぽかんと固まっていた俺はふと我に返り、いろいろな目に会いながらも決して離さなかった鍵を抱え直した。人間、必死な時は意外と落とさないものだ。
青色の葉を見ながら、俺は鷲尾のもとに向かって走り始めた。
やっぱり駄目だ、たどり着かない。何処を歩いても同じに見える。同じところをぐるぐると回ってしまっている気がしてならない。まっすぐ歩いてるのに。
観念しよう。迷ったのだ。
逃げ回っているときは意識していないくらい軽かった鍵も、今になってはもう重たくてしょうがない。どっかにおきたいけど、それじゃ帰れないし・・・
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷