その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ですがねぇ、ここで白の王がこんなことを言いだしたんですよ」
そういうとトトトと先に数歩出てくるりと方向転換をし、白の王の真似なのかドンと仁王立ちをした。
「『この白が勝った暁には、赤の王をお前にくれてやろう』!」
人をプレゼントってすげぇな。でもここまで来てやっと解った。車掌は赤の王が好きだったのか。遅いとか言うなよ?恋愛にはかなり鈍いんだ。
「これを聞いた赤は流石に焦りましてね。車掌が前々から言っていた『赤の王にだけ仕えればいい』という条件を飲むほかなかったんですよ」
なるほど。つまり何がどうなってそうなったのかいまいちわからなかったけれど、とにかく例外を認めざるを得ない状況になったってことは解ったぞ。
「なあ、アリス」
説明が終わったと判断した鷲尾がひょいと割り込んできた。
「今の説明、解るか?」
「解らん」
正直にそう答えると、「だよな」と少し安心したような様子で返された。誰かから馬鹿にされたんだろうか・・・?
「我が主の恋愛理解度が獅子丸と同レベルとはな」
先に進んでいた宝亀が足を止めてこちらを見ている。そういえば、鷲尾を馬鹿にするのってこいつぐらいじゃないか。今更気付いた。そして
悠然と立つ宝亀は確かに美人なお姉さんで間違いないんだけど、その主張の無さすぎる慎ましやかな胸部とすらっとした高身長、そして特に背中に背負ったでかくごつい盾は、どう見ても女性らしさとはかけ離れていた。そんな人から「女心が解ってないな」と言われると、なんだかすごい敗北感がある。
少し意気消沈したところで、ふと、結構重要なことに気付いた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷