その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・い、まさら、なんだけど、車掌って女の子なのか?」
「え、こっちの世界だと同性同士だとこう言うのは滅多に起こらないんですが、主のところでは珍しくないんです?」
いや、それは珍しいことだと俺個人は思ってるんだけど、今聞きたいのはってか言いたいのはそういうんじゃない。
「いや、車掌って言葉だけで男だと思ってた」
「まあ、男だと思っても全く支障ないレベルの女性ですけどね。誰かさんみたいに」
そういって打海がちらりと宝亀を見たので、思わずああと納得してしまった。あれだな、逞しい系ってか勇ましい系ってか、良い言い方すればカッコいいお姉さんってことか。
そんな話をしているうちに、森の奥に赤色の塊が現れた。変な生物とかじゃなくて・・・そう、樹海とかにありそうな苔生した岩がどーんとあるような・・・。でも、どう見たってその中の物は岩じゃない。窓っぽいのは付いてるし、鉄・・・の塊が苔から逃れてむき出しになっていた。
「・・・電車?」
そう、木造列車だ。本物は初めて見たけれど、もはや原形が解らないくらいの姿になっているので、初めてとカウントしていいのかすら解らない姿だ。
ぽかんとそれを見ていると、鷲尾がそれを指差した。
「あれ、あれが車掌の家だ。今回はまたずいぶんなところにあるなぁ」
「今回はって・・・」
気になったセリフを抜き出すと、後ろから現れた宝亀が赤色の塊を「うわぁ・・・」って感じの不快そうな顔で眺めていた。
「動くんだよ、あれごとな」
そらもっさりもっさり動くんだろうな、どこぞの大型芋虫みたいに・・・。そういうのを好ましく思わないところは、女性だからなのか性格上か・・・ま、性格か。車掌も女の子なわけだし。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷