その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「戦闘具合にもよるな。敵に見つからずに行けば恐らく3日以内には着く。が、行き先で敵の戦闘があれば、ルートを変更することもやむを得ないだろう」
それはまた・・・ただひたすらに敵に合わずに行けることを祈る以外に道がないじゃないか。でも、解ってる。こういう「会いたくない時」に限って変な奴が出てくるんだ。会いたくないレベルの変な奴が。
・・・と言うのは懸念だったらしく、思いのほかあっさりと車掌の家にたどり着いた。なんか、わかったぞ。とにかく俺の勘は片っ端から当たらないんだな、この世界では。いや。元の世界でも当たったことの方が少ないくらいの勘の鈍さだった気もするんだけどさ。
それにしても、と、俺は車掌の家を見上げた。
何とも分かりやすいと言うか、自己主張の激しいと言うか。俺の世界では芸術家や発明家は少し変わっている奴が多いとは聞いたことがあるけれど、それもこの世界とは共通しているようだ。
車掌の家は機関車の形をしていた。内装がどうなっているのか解らないが、廃機関車にそのまま住んでいるのか?と思うレベルのそのまんまの形だ。色も特に塗っておらず、勝手につる草のアートが出来上がっていて雰囲気だけ出ている。
「なあ、こんなところに住んでるから車掌なのか?」
「それは、鶏が先か卵が先かという話だろうな」
「・・・『車掌』って元から車掌をやっていたわけじゃないのか?」
「いや、やっていたさ、昔はな。こう・・・皆を乗せて・・・」
宝亀が思い浮かべるように間をとって言うので、俺も頭の中で想像する。イメージはまるで銀河鉄道だ。
「崖とか急降下して脅したり、山に突っ込もうとしてギリギリのところで急上昇したりして、乗客の戦慄の走った顔を拝んでは楽しんでいたな」
あの有名な、黄金時代の高速機関車を模したアトラクションの方だったか。
「そしてあの頃からあいつは、一歩も機関車から出ないような男だった」
いくら機関車でもそれはひきこもりじゃないか。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷