その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「車掌はね、発明家なんですよ」
「発明家?」
思わず聞き返してしまった。だって、アナログだったり物々交換みたいな古臭い・・・って言ったら失礼だけど、古風な風習が残っている世界だ。そこにいきなり出てくるワードとしては違和感を覚えるのも当然だろう。だが、間違って発明家が解らないと思われてしまったようだ。
「えーっと、発明家って言うのはですね・・・」
「あ、いや、それは解ってる。大丈夫だありがとう」
説明を止められた打海はぽかんとした顔で固まったが、すぐににゃはっと笑った。説明をぶっちぎって不快にさせたかとかさりげに考えてしまっていたが、どうやら大丈夫なようだ。
「で、アリス!これはどう使うものなんだ?」
シャーペンを突きだして羊元がそう尋ねてきたので、とりあえず使い方だけ教えた。「鉛筆の代わり」なんて言ってしまって怒られるかと一瞬ドキッとしたが、何とか突っ込まれずに済んだ。
「何と!消えるペンだってのかい?」
「あーっと、それだとちょっと違うものになるんだけど・・・」
商品名はあげないけれど、最近俺も愛用してい例のあの「消えるボールペン」っぽい言い方だ。シャーペンはもちろんちょっと違うんだけど、何度説明しても伝わらなかったので、最終的に諦めた。
羊元は早速紙を取り出してくると、シャーペンで文字をさらさらっと何かを描いた。何て書いてあるのか解らないけど、「おおっ!」と羊元は一人感動している。あとでこっそりと鷲尾に尋ねたら、どうやら「羊元 美織」と書いたそうだ。名前が和名だから日本語を使うのかと思ってたけど、どうやら違うらしい。
地図を手に入れた俺たちは、シープ&ゴートを出て車掌の家に向かう。空はもう完全に黄色に染まり、鷲尾の案内と地図でひょいひょい進める状態になったとはいえ、隠れて移動するため行動速度は明らかに遅くなった。当然だけど、出来るだけ戦闘は避けていきたいというわけだ。
「この速度で一体どれだけかかるんだか・・・」
ぽろりとぶぅ垂れた文句を、宝亀はくそ真面目に拾い上げる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷