その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「地図が欲しいんだ」
「ほう、地図ねぇ・・・」
当然だとは思うけど、羊元の視線は鷲尾に行った。彼は飄々とした表情を崩すことなく、涼しげにそれを受け止める。鷲尾がいる限り、地図はいらないっていう俺の考えは合っていたようだ。
しかし、先ほど俺が鷲尾の発言で気付いたこともやはり正しいようで、羊元はすぐに店内へ引っ込んでいった。
パフパフと妙な音と共に、朝日が昇ってくる。光が差し込んできて、深緑から緑に変わったばかりの空をまた黄色に塗り変えていた。その空を、パフパフと音を立てながら何かが横切っていく。啼き声ではなく、あの音だったのか。
結局徹夜だったな・・・とか体力の限界と眠気の局地を感じている時、羊元が戻ってきた。その手には、何やら細長い棒状の何かを持っている。
「ほら、持ってきたよ」
「あ、ありがとう」
受け取ろうと手を伸ばしたが、その手は真下に叩かれた。
「物々交換だよ。これもなかなかの貴重品だからねぇ」
今、密かにハードル上げたな・・・?
じとーっと恨めしげに羊元を見たが、彼女も商人だ。全く怯むこともなく堂々としている。味方なら頼もしいけど、今の状況じゃ全くもってありがたくもなんともない。ってか面倒だ。
冷や汗だらだらな俺に、打海がこっそりと聞いてきた。
「主、大丈夫なんですか?」
「え、何が?」
「それを聞いてくる時点でかなり不安なんですが・・・」
動揺が隠しきれなかった。すると、俺を励ますように打海が背中を叩いてくる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷