その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「そのイタチ、お前さんのペットかい・・・?」
俺は女の子の感情には中々疎い方だと思う。だからクラスメートの女子からは「気が利かない」とか「KYだ」とか言われるんだろうなとか思ってたりする。そんな俺でも、羊元が怒っているとすぐに解った。それくらい解りやすかった。
「そ、そうだけど・・・」
「そいつ!あたしの耳を齧ったんだよ!!」
ああ・・・やっぱりこいつしでかしたのか・・・
呆れた目でトーヴを見ると、彼はもう褒められる気満々だ。ドヤ顔でこちらを見上げている。普段動物の表情なんて解らないのに、こういうときだけなんで解るものか・・・
耳を押さえた羊元がじろりとにらんでくるので、つい怯んでしまう。が、正直イタチに躾をしている姿なんて見たことない。もちろん、躾けられたイタチなんてのも見たことはなかった。
この場は一応トーヴを怒っといた方がいいのか・・・?でもそれも相当本気で怒らないと、火に油な結果を招くだろう。でもこんな良いことした感に満ち溢れた動物を無意味に怒鳴りつけることもできない。なにせ、実際彼は良いことをしてくれたのだ。
さて、ではこの場をどう納めるべきか?
そんな答えが簡単に思い浮かぶわけがない。だって俺だよ?この俺ですよ?思いつくわけないよな。
「貴殿が起きて来なかったので、イタチが自主的に策を練っただけだ。アリスに非はないだろう?」
「それとも・・・」と、フォローを入れてくれた宝亀が、不吉な笑顔で羊元を見つめた。
「客人を怒鳴りつけるのが礼儀なのかね?」
「いきなり寝てる店主を叩き起こす輩が客人だと?」
「そういって客人に難癖付けて追い払うのは賢いやり方じゃないだろう」
宝亀のその言葉に、羊元は怪訝な顔をした。何がどう不思議なのかも解らないくらい、俺にはまったく理解できない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷