その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なあ、何のためにここに来たんだ?」
「何のためって・・・地図をもらうためだよ」
鷲尾がきょとんとした顔を向けてきたので、つられてきょとんとする。
「え?車掌のところって、お前の能力で行けるんじゃねぇの?」
「行けるよ?」
ますますわけが解らない。ぐるぐると考え込んでいると、鷲尾がやっと俺の抱いていた疑問の意味に気付いたらしい。「ああ!」と脳スッキリなアハ体験の後に説明してくれた。
「はぐれる可能性があるから、地図をもらっとくんだよ」
何ではぐれるのか、聞こうと口を開きかけたところで思い出した。そうだ。昼は赤だろうが白だろうが、少なくとも敵がうろうろとうろついているのだ。もし誰かに遭遇した場合、戦闘出来ない俺をかばいながら戦うより、俺を先に行かせてしまった方が楽だ。少年漫画に言う「○○!先に行け!!」な展開じゃ無いのが残念だけど、それが現実だから仕方ない。俺を逃がす際に、打海の能力を借りることになるだろうから、そこから考えて鷲尾と宝亀が二人で足止めをすると考えられる。宝亀が戦闘要員でないことは、前回の柳崎の時の件で解ったし。
そうなると、確かに地図は必要かもしれない。今の時代、現実世界ではカーナビやスマホのマップ系アプリで道順をナビゲーションしてもらうのが当たり前だ。けれどもこの世界にはGPSどころか、デジタル機器もない。紙相手に格闘することになると知っていれば、必死に地図の読み方を覚えたのに・・・。い、いや、まったく読めないわけではないぞっ!!
と、その時だった。
「ぎゃぁあああああああっ!」
店内から酷い叫び声が聞こえてきた。
「羊元っ?!」
怒られると言うことも忘れて思わず店内に飛び込むと、凄い勢いでトーヴがこちらに走ってくる。そのまま身体を駆け登って、背負っていたカバンの中にすっぽりと入りこんだ。
「有須、何があった?」
流石の異常事態に驚いたのか、はたまた俺が入ってしまったので慌てて追ってきたのか、どちらかは定かではないが、残りの三人も付いてきた。けれども、俺には説明ができない。
「いや、トーヴがいきなり走ってきて、カバンの中に・・・」
ぞくっと悪寒がした。まさか・・・こいつ・・・
ゆっくりと、おそるおそる店の奥を見た。するとそこには・・・
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷