その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「有須まで・・・。足元が見えていないのなら手を貸すが?」
そういって手を差し出されるけれど、いくら男っぽい、勇ましいと思っていたって手のひらを見れば宝亀は完全に女の子であり、女の子の手をホイホイと掴めるほど俺には度胸が備わっていなかった。深く考え過ぎなことも、損してることも重々承知だ。
「大丈夫」と返すと同時にまた「パキッ」と乾いた音が鳴った。宝亀からは心配の目と言うより、あからさまに呆れた目を向けられる。もうこれは逃げ道がないかもしれない。そう手を伸ばした時、横からひょいと手を掴まれた。
「んじゃおいらが案内しますよー」
「やめてくれ、男と手を繋ぐ趣味は無い」
「じゃあまた一人で歩いて亀まがいに怒られますかぁ?それとも亀まがいと手ぇ繋ぎます?」
選択肢があるようでないじゃないか。
「それなら宝亀に頼む」
「よし言ったな。私が案内するからには音なんて鳴らさせまいぞ」
宣言通り、宝亀は俺にちっとも音を立てさせずに道を進んだ。そして開けた場所についた。が、そこに広がっていたのは、見覚えのある風景。そして、見覚えのある建物だった。
「これは・・・羊元(ようもと)の」
そうだ、「ゴート&シープ」だ、確か。この世界唯一の店の。
珍しく場所をはっきりと覚えていた俺を見て、宝亀が感心する。
「覚えていたか。そう、『シープ&ゴート』だ」
・・・逆だったか。まあ、大まかな情報はあっているから良いとしよう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷