その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あのね、藤堂。これは『持ってるもの』じゃなくて、『作るもの』だよ」
「へ?」
藤堂の反応ももっともだ。鷲尾の羽根や、まあまだ宝亀の鱗くらいまでなら解る。でも今目の前でかざされているものは、ただの細長いだけの毛だ。髭って言うより、髪の毛って言った方がしっくりくるものかもしれない。少なくとも、作ろうとして作るものだとは、どうにも思えないのである。
「・・・抜くってこと?」
彼女が痛そうな顔で根角を見ると、彼は微塵も隠さずにさげすんだ目を藤堂に向けていた。自分に好意を持ってる女の子に向ける目ではないのは確かだ。こいつ、本気で気付いていないのか・・・?
「君は人の話を聞いていなかったのかい?誰も抜くなんて言ってないじゃないか」
「クク・・・ッ、そうだな。もしそれを抜いて作っているのなら、私の鱗は剥いでいることになるな・・・」
珍しく笑いをこらえながら、宝亀が呟いた。根角以外に馬鹿にされるのは嫌なのか、藤堂は宝亀にギロリと凶悪な視線をぶつける。けれども宝亀が怯むはずもなく、いやぁな空気だけがもや〜っと湧いただけで終わった。
「で、でさ、どうやって作るんだよ?」
「能力を込める」
さて、解んねぇのが来たぞ。何?能力ってこもるの?ってか何に込めるんだよ結果抜いてんじゃねぇの?
俺と藤堂の理解度やその他感性は似ているようだ。藤堂は根角の顔を見て難しい顔をしていた。解る。解るぞその気持ち。
つい最近知り合った俺ですら解った藤堂の疑問だ。当然のことながら、根角もすぐに解った。彼は続けて説明しようと口を開きかけたが、すぐに閉じて腕まくりをする。
「説明してもどうせ解らないでしょ」
「んなことねぇよ!」って言い返したかった。「馬鹿にすんなよ!」って笑い飛ばしたかった。が、残念ながら確かに説明されても解る自信がない。藤堂も同じようで、何か言おうと口をパクパクさせていたが、結局言葉は出て来なかった。
根角は少し空間を開けて手を重ねた。イメージ的には、「おにぎりを握っている構図ーおにぎり」ってところか。もっと解りやすい説明もある気がするけど、こう言うところで作品名を出すのは少し恐ろしいものがあるから、避けておこう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷