その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ボクのはこれだ」
「それは?」
「ボクの髭」
動物に詳しい方ではないけれど、テレビで見た知識くらいはある。が、ネズミの髭ってそこそこ重要な器官じゃなかったっけ・・・?ってかあれって抜けるものだっけ?
俺が少し引いたのを見て、根角の眉間にしわが寄った。そりゃそうだろう。見せろと言われて見せたら引かれるなんて、最悪の状況だ。けれども、そこではなかった。
「これが何なのか、本気で知らないの?」
・・・もしかして、また誰かの説明不足?これを初めにくれた人と言えば・・・
俺はじっと鷲尾を見た。すると自然に、皆の視線が鷲尾に行った。それらは完全に責める目つきだったにもかかわらず、彼はそれを飄々と受け止めて、挙句笑う。
「いやぁ、使い方さえ解ってれば問題ないだろ?」
その場にいた誰しもが、きっと鷲尾らしいと思ったに違いない。でも、今の状況でそれを言うか?長い付き合いであり、半ばお互い保護者的な立場にある宝亀が、一番じっとりとした目で見てるんだけど。
そんな中、そろそろと藤堂が挙手をした。
「ごめん・・・私も解らない」
「・・・君は、この世界の人間で能力者でしょう?」
「だ、だって、あたしそんなの持ってないし・・・」
「『持っている』という時点で、解ってないと言うのは事実らしいのう」
能力者でそういう知識がないのは珍しいらしく、呆れを通り越して感心した表情で若杉が藤堂を見た。そんな目で見てやるな。あきれ返った顔をした方が良い時もあるんだぞ!
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷