その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なぁ、赤とか白ってどうやって連絡してるんだ?」
「テレパシー」
まさかの?!
「獅子丸、有須をからかうのはやめろ」
やっぱりからかっていたのか。むっとした顔で睨みつけると、鷲尾はしらばっくれて口笛をぴゅうと吹く。からかわれたことも悔しいけど、口笛でかわされたのも地味に悔しい。なぜなら、俺は口笛が吹けないからだ。下らないともうかもしれないけど、なんかすごくそんな些細な返し方がイラッとした。お前には聞いてねぇって!
そんな俺らを見てため息をついた宝亀に、改めて聞き直す。が、彼女は少し困ったような、もどかしいような顔をした。説明ができない、というよりもむしろその雰囲気は・・・
「もしかして・・・解らない、とか?」
「何とも情けないことだが、御名答だ」
宝亀が説明に困ることはあった気がするが、「解らない」という言葉を聞いたのは初めてだ。別に責めているわけでもないのに、宝亀が慌てた様子で弁明をしてくる。
「し、仕方ないだろう!『亀まがい』は王族に仕えたこともなければ、いつの時代も双方に追われてきたから、それに関わる者たちから話など聞けたことは無いのだ!」
解らないって言葉は、博識がステータスの宝亀にとってとても恥ずかしい言葉だったらしい。真っ赤になった顔で妙に間合いを詰めて必死に説明する宝亀を見て、初めて「あ、こいつ女だっけ・・・?」って実感した。今までは頭で理解してるってレベルで、もう絶壁だし「ついてんじゃね?」と疑ってました、すいません。
「いいって、大丈夫だって!気、気にすんな」
「うそだっ!亀まがいのくせにと思ったろう?!」
「思ってないって!」
意外と面倒くさいな!いつものさばさばとしたカッコいい宝亀は何処いったんだ?
困っているのが解ったのか、宝亀を楯越しに鷲尾が羽交い絞めにした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷