その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
もうパターン的に覚えているのだろう。俺の質問を先んじて宝亀が説明してくれた。
俺がいろいろお世話になっている能力は、二種類に分類されている。一つが「ワンダー」、もう一つが「ミラー」だ。
まずはワンダーから説明しよう。大雑把に言えば、自分に対して働く能力のことを言うらしい。解りやすい例では前世の記憶を呼び起こせる宝亀の「亀まがい」や、忘れかけていたけど、怪力になる柳崎の「ジャバウォッグ」なんかがこれに当てはまる。解りにくいところで言えば、ナビゲーションできる鷲尾の「グリフォン」なんかもこれに入るのだそうだ。この能力は触れない限り俺の「無効化」は意味をなさない。個人的に見れば、気を付けなければならない奴らだろう。
それからもう一つの能力がミラー。もう察することもできるかと思うけど、これは他人や物に対して働く能力のことだ。武器の管理ができると言う羊元の「羊」や、王族の「白の王」「赤の王」等も全てここに入ると言う。ちなみに俺の能力の「アリス」は能力無効化も風を生み出す能力もこれに入るらしい。
で、この両方に働く能力って言うのは、原則的には存在しないんだそうだ。自分にも他人にも使えるなんて、絶対便利だもんな。ただ、ここに例外が一つだけある。それが「チェシャ猫」だ。
「チェシャ猫」は、ワンダーでもありミラーでもある特殊な能力だ。ここからは宝亀の推測なのだが、これは自分を守るためと言うほかに、アリスを守るためだと考えられるそうだ。
けれどもこのチェシャ猫の特異性と言うのは、ワンダーとミラーの両方を兼ね備えているという点のみだ。実際、ポピュラーな能力と異なる能力と言うのはこの世に三つあると宝亀は語る。
「三つ?」
「そうだ。そのどれもが、生まれながらにして仕える者が決まっている」
「それって・・・」
「ああ。『白兔』、『白の騎士』、『チェシャ猫』だ」
一応説明しておくと、「白兔」こと雪坂は赤の王族に、「白の騎士」こと雉野は白の王族に、そして「チェシャ猫」こと打海はアリスに仕えることが決まっている。以降の説明はこの人物名に代えさせてもらおう。俺もよく解らなくなったから・・・
まず雪坂。雪坂の能力を俺は見ていないが、彼女の能力はミラーらしい。相手の目に映る自分の姿を変える、と言うもので、この能力を俺の世界でも使うことができることから、その能力の高さが伺える。見てる分には変身してるのと同じだと、見たことがあるという藤堂が補足していた。俺と元の世界ですれ違った時も、他の人には猫くらいにしか見えてなかったんじゃないかと、根角も付け加えてくる。
次に雉野だ。彼の能力は俺も見た通り、身体能力の強化だ。一見すると他の能力と差がないように感じたけれど、普通は身体の中でもどこか一部だったり、「怪力」みたいに能力が限定されるものらしい。が、彼の能力に限定は無く、生身の体が使える限りは、跳躍力だろうがパンチ力だろうがいくらでも変換可能なのだとか。万能じゃねぇか、本当に。最強って皆が言っていた理由がよく解る。
そして打海はもう説明することは無いだろう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷