その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「いいよ、もう」
彼は俺の前に歩いてくると、右手を出してきた。グーでとかじゃなく、パーで、こう・・・握手を求めてるみたいな出し方だ。
何で握手なんだ?と結構本気で疑問だったんだけど、それ以外思いつかずに一応その手を握り返した。
「・・・相手が何を持っているのかも解らないのに握手をするなんて・・・そうとう平和な脳味噌なんだね」
「お前、悪趣味にもほどがあるぞ」
「けなしてないよ、むしろ褒めてるのさ」
この世界のルールがよく解ってない俺が言うのも説得力無いかもしれないが、絶対にそれはこの世界でも常識じゃないと思う。
「君が平和を目指すなら、このネズミが手を貸そう」
何でだろう。こいつの言い方はいちいち上から目線な気がしてならない。これって気のせいなのか?気のせいで良いのか?
すると今度は俺の空いていた左手を誰かが掴んだ。吃驚してそちらを見ると、藤堂がじっとこっちを見ていた。
「根角が忠誠を誓うなら、あたしも誓うわ」
おい待てその考えは多分間違ってるぞ。っていうか、あの上から目線なセリフは忠誠を誓う合図だったのかよ、わっかりにくいな!
若杉の「よし」と言う声に合わせて二人が関心など全く持たないようなそぶりで俺の手を離した。揃って服で手をぬぐう。お前ら、失礼って言葉知ってるか・・・?
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷