その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「案内をするだけなら、この建物の下で良かろう。中に入ってくる必要性は無い」
あ・・・なるほど。つい感心してしまった。言われてみればそうだ。案内するのならこの下でさようならでも確かに問題は無い。若杉に用があるからここに来たわけだ。
俺ですら解ったわけだから、当然根角もすぐに理解した。言葉を詰まらせて、ぐ・・・っと黙った。
「よ、用があるのはあたしだわ!」
根角と若杉の間に身体をねじ込ませて、藤堂が二人の間に割り込んだ。キッと若杉睨んでいるが、その脚はわずかに震えていた。そりゃそうだ。二人の周囲の空気は緊張していた。あの間に言葉を突っ込むことだって大変なのに、彼女は身体ごと割り込んだのだ。それは、相当な勇気だと思う。
普通なら称賛に値する行為だが、若杉には愚かな行為と映ったようだ。酷い嫌悪の目で彼女を見た。
「貴殿は、何を求めてその行為をしているのだ?」
何って・・・藤堂はただ根角が好きなだけなんだぞ?なんでそんなこと・・・
当然藤堂はビクッとして黙ってしまった。しかし、彼女は睨む姿勢だけは崩さなかった。
「あたしは、あたしの願いをかなえる方法を教えてほしいから、『案内している根角』に勝手についてきただけだわ」
「それでは貴様だけがこの階に来ればいいだけのこと。根角が来る理由にはならん」
そう言われると、藤堂も万策尽きてしまう。
すると、根角が大きく息を吐いた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷