その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「よせ、打海」
そう制止を入れたのは、鷲尾だった。え、こいつ、二人の会話解ってんの?そんなに頭良かったっけ?でも考えてみれば、宝亀のこ・・・じゃなかった、一番の友達である鷲尾は、ある程度頭がよくないと彼女と会話もできないだろう。
しかし。
「折角若杉が俺らに協力してくれるって言ってんだ。無駄にするのはよくないって」
・・・そうだ。こいつ、たまにものすごく純粋なんだった。年上相手にいうのもあれなんだけどさ。
「それに、若杉のしたいこともわかるだろ?」
・・・え、解ってんの?
ぽかんとしていると、打海も「むむむ・・・」と黙りこくった。黙ったってことは解ってるってことで・・・
つまり、俺だけ解ってない。
「ちょ、ちょっと待っ・・・」
「あーもー!!どうなってんのかわっかりゃしないじゃない!!もっと解りやすい言葉で言いなさいよ!」
セリフとられた。
が、まあいい。グッジョブ、藤堂。ナイス藤堂。俺もそれが聞きたかった。
すると、今まで黙っていた根角がため息をつく。それから勇み足で前に出て、若杉に掴みかかろうとしていた藤堂の首根っこを掴んだ。ずるずると、後ろに下げる。
「若杉が利己的に動かないわけがないじゃないか」
今、「亀まがい」が俺に従属をしている。それがどういうことなのかは、もう前に説明したとおりだ。ただ、ここからがその続きになる。
根角の居場所が皆知られている状態で、赤と白の両方が様々な手を駆使して来た場合、若杉は逃げられないだろう。嫌いな王族に仕えることになるかもしれない。
さて、そこに俺と言う新たな選択肢が現れたわけだ。そして俺は宝亀の主・・・っていうとあれなんだけど、一応それもやってるし、若杉の選択肢としてはまあいい方だったんだろう。ありがたい・・・のかわからないけど。
そこまできたら、若杉の頭の中ではもう答えは一つだ。俺に仕えればいい。だって俺に仕えれば、どちらに仕えるのかと言われることもないし、戦争反対を掲げていれば戦争にかかわることもない。つまりこの部屋から出る必要もないわけだ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷